RoboCup SSL Rootsの回路を分析!【6:電源回路の分析 ロードスイッチ】
こんにちは。ロボカップSSLに出場するチームRootsのと雷です。
チームではソフト開発を担当していますが、このブログでは回路班の新人としてがんばります。
前回に引き続き電源回路を分析します。
目次:
Rootsのロボットとは
Rootsのロボットに限らず、ロボカップSSLに出場しているのはこんなロボットです。
直径180 mm、高さ150 mmの大きさで、
準優勝でした!!!
— と雷@技術書典応援祭 (@chmod_x_akasit) August 18, 2019
ここまで勝ち続けられるとは思っていなくてびっくりしましたが、Rootsは強くなっています!!!
応援してくれた皆さんありがとうございました!!!
そして、キーパー0番と、PKを決めた4番ありがとう!!!#roots_ssl pic.twitter.com/FIhRi9MRI8
オムニホイールで全方向に移動して、
MFTの会場でデバッグするロボカッパー#MFTokyo2019 #MFT2019#roots_ssl pic.twitter.com/JvP72JAYac
— と雷@技術書典応援祭 (@chmod_x_akasit) August 4, 2019
ゴルフボールをキックするサッカーロボットです。
ロボット ヨシ!!!#MFTokyo2019 #MFT2019#ssl_roots pic.twitter.com/W0ElI09uij
— と雷@技術書典応援祭 (@chmod_x_akasit) August 2, 2019
設計データはGitHubに公開しています。
電源回路のブロック図と回路図
前回の記事で紹介したブロック図がこちらです。
回路図がこちらです。
ロードスイッチ回路
前回紹介した逆電圧保護回路の後段には、Pch MOSFETで構成するロードスイッチ回路があります。
ロードスイッチ回路を用いることで、マイコンの出力信号レベルでパワーラインをON/OFFできます。 Rootsの回路ではトグルスイッチでON/OFFしています。
ロードスイッチ回路を使わずトグルスイッチだけ電源電圧をON/OFFする場合、 最低でも7A流せるトグルスイッチが必要です(ヒューズF201の定格電流が7Aのため)。 7A流せるトグルスイッチはサイズも価格も大きいので使いたくないです。(機械班に怒られます)
逆電圧保護回路ではない
前回紹介した資料、リニアレギュレータの逆電圧保護 | Rohm にはPch MOSFETを用いた逆電圧保護回路が書かれています。
ロードスイッチ回路とよく似ていますが、ソースとドレインの向きが逆です。 ロードスイッチ回路に逆電圧をかけると負荷電流が流れてしまうので注意しましょう。
LTspiceによるシミュレーション
MOSFETの向きを間違えるとロードスイッチ回路が逆電圧保護回路になってしまいます。 でも、本当にそうなるのでしょうか?
実際に回路を組むのはコストがかかるのでLTspiceでシミュレーションしました。
図の左側がシミュレーション回路です。 V1とV2は-15Vから+15Vまで変化します。 M1とM2はMOSFETです。Rootsの回路で使用しているIRF4905のモデルをロードしました。 負荷抵抗R1、R3は10Ωとしました。
図の右側がシミュレーション結果です。 入力電圧Vin(V1とV2は同じ電圧)と、負荷に流れる電流I(R1)、I(R3)を表示しています。
入力電圧が0V以下のとき(逆電圧を印加したとき)、I(R1)には電流が流れています。 つまりロードスイッチ回路には逆電圧保護機能がありません。
入力電圧が0V以上のとき、I(R1)、I(R3)の両方に電流が流れます。 ただし、ロードスイッチ回路の負荷電流I(R1)は、Vinが約4Vに達するまでは電流が流れていません。 この約4VというのはMOSFETのゲートしきい値電圧です。 逆電圧保護回路の方はVinが小さくても、MOSFETのボディダイオードを通して負荷電流が流れます。 つまり、逆電圧保護回路では電源供給をON/OFFできません。
ロードスイッチ回路の構成部品
ロードスイッチ回路の構成部品はPch MOSFET(Q201)、抵抗(R201、R202)、ツェナーダイオード(D202)、 そして外部に接続されたトグルスイッチです。
それぞれの型番と役割を分析します。
Q201について
Pch MOSFET Q201の型番はIRF4905PBFです。
絶対最大定格のうち、ドレイン電流(Id)が-52A(ケース温度100℃のとき)、ゲートソース間電圧(Vgs)が±20Vです。 バッテリー電圧は最大17Vなので、定格電圧を満たしています。 ゲートしきい値電圧(Vgs(th))は-2.0 〜 -4.0Vです。
※おそらく、このMOSFETの定格電圧Vgsから入力電圧(バッテリー電圧)の上限を決めたのだと思います。
D202について
ツェナーダイオード D202の型番は1SMA5931BT3Gです。
電気的特性よりツェナー電圧(Vz)は18Vです。 ツェナーダイオードの役割はゲートソース間の保護です。 定格以上のVgsが印加されることを防ぎます。
LTspiceでシミュレーションしてみました。 ダイオードの型名は違いますが、ツェナー電圧は同じく18Vです。 入力電圧V(input)が18V以上印加されても、ゲートソース間電圧V(N001, N002)が約18Vに保たれていることが分かります。
「バッテリーを使うからこの保護いらないでしょ」と思いましたが、 安定化電源で回路を動かすときに間違えて20V以上印加するかもしれませんね。
R202について
ツェナーダイオードと並列に、MOSFETのゲートソース間には100kΩの抵抗R202が接続されています。 このR202はタクトスイッチをOFFしたときに、MOSFETのソースとゲートを同電位にしてMOSFETをOFFするために必要です。
同電位にするだけなら抵抗を接続せずショートしてもよいのですが、 タクトスイッチをONしたときに電源 - GND間がショートして大電流が流れます。
抵抗値は100kΩとなっていますが、なんとなく決めた値だと思います。
R201について
ゲート端子とGND間(正確にはタクトスイッチを経由したGND)には100Ωの抵抗R201が接続されています。 R201はゲート直列抵抗とも呼ばれ、MOSFETのスイッチング動作に影響します。 ゲート直列抵抗が小さければ(例:0Ω)、スイッチングは早くなり、 抵抗値が大きければ(例:50Ω)、スイッチングが遅くなります。
スイッチングの速さは、スイッチングの効率や放射ノイズの大きさに影響します。
しかし、スイッチングの速さはMOSFETを高速(例:100kHz)でON/OFFするときに気にするもので、 ロードスイッチのように高速でON/OFFしない回路では気にしません。
ということで、ゲート直列抵抗R201の抵抗値100Ωもなんとなく決めた値だと思います。
注意として、R201を10kΩや100kΩにするとタクトスイッチON時のVgsが低くなり、 MOSFETがONしなくなります。 なんとなく決める抵抗値は、何でも良いわけではありません。
(個人的には、ロードスイッチ回路のゲート直列抵抗は不要だと思うのですが、まだ何か理由があるかもしれません)
参考資料
- パワーMOS FET活用の基礎と実際, p.23, pp.41-44 pp.153-P155
- パワーMOSFET/IGBT入門 電気・電子 | 本・雑誌 日刊工業新聞, pp.117-P119
まとめと次回予告
今回はロードスイッチ回路について分析しました。
次回で電源回路を終える予定です。